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「技術的に可能なこと」と「ずっと使えること」は同じではない [教育情報化のための補論]

持続可能性(sustainability)は、筆者が提唱する教育情報化4原則のひとつ。教育現場に導入されるテクノロジーは、日常的かつ高頻度な利用に十分耐えうるものでなければいけない。

テクノロジー導入の実現可能性(feasibility)を測るには、技術的課題のみならず、達成目的の設定共有、組織的な運用体制、あるいは、公共機関や教職員にとっては見えにくいシャドウコスト(shadow cost)に対しても十分検討を行う必要がある。

過去数十年にわたって、教育にテクノロジーを導入するにあたっての最大の課題とは、本来、実現可能性(feasibility)を検討するべき実証実験(モデルプロジェクト)の目的が、もっぱら技術的可能性の実現に偏ってしまうことだった。

ひとつ例をあげてみたい。15年以上も昔、パソコンが学校に本格的導入される前、研究指定校のパソコン実践(実験授業)に付き合う機会に何度も遭遇したのだが、当時のごく一般的なパターンはこんな感じだ。

まともなソフトウェアがない時代、一度の授業を組み立てるために、実践者がまず取りかからねばならないのは、プログラミングの知識を習得することだった。
たった一度の45~50分の実験授業の準備に費やされた期間は約半年。プログラムの内容はすべて教師のオリジナルだったが、実際の授業時間では、パソコンの使い方の説明に大半の時間が費やされ、子ども達がパソコンのプログラムに自由にさわれるのは、せいぜい5分だった(非力なパソコンが扱える情報量と、情報収集と入力・変換に恐ろしいほど手間のかかった当時の状況を考えれば、それでも立派なものだ)。
当時の関係者の名誉のために言っておくが、昔は一時が万事こんな感じで、しかも、実力があると見込まれた教師が格闘しても、手なずけるのが恐ろしく困難な代物だった。インターネットもない時代、おそらくは相当の自己犠牲を伴いつつ、将来への可能性を見出してきた開拓者達の営みは、今でも十分な賞賛に値する。

ただし、最悪なのは、その後の企画側の対応だった。45~50分の(正確には5分の)ために、半年以上を準備に費やした事はどこかへ置き去りにされてしまうのである。
技術的可能性と(新奇性効果が多分に含まれるであろう粗悪な)教育効果ばかりがもてはやされ、コストのことは誰も気にしなかった。機材仕様や入札価格の話が白熱する一方で、大半の自治体では、日々の維持管理や授業準備には、まともな予算が振り向けられなかった。かくて、学校には開かずの間のパソコン教室が出現し、シュリンクラップのかかったままの真新しいソフトウェアが放置され、一部の詳しい教師にばかり負担がかかり、職員室はいつまで経ってもパソコンが導入されない、という状況を全国に作ってしまった。

これは学校現場の問題というよりは、モデルプロジェクトの構造上の欠陥だ。広い視点で実現可能性を検討すべきところを、偏狭な技術的可能性に追い込んでしまうのである(教育現場なら、本来真っ先に検討されるべきシャドウコストが、いまだ真っ当に議論されていないのはその証左である)。

ただでさえ、教育予算が逼迫する現状にあって、年数回のイベントのために高価な機材やシステムを使わずに遊ばせておく余裕などある訳がない。教育情報化の持続可能性に対する期待と責任は、これまでにないほど高まっているのである。

持続可能性はどのように検討すべきか。筆者として次の3点を提示したい。

  1. 技術課題:いうまでもない技術的可能性には、さらに、日常的に利用された際に必要となる堅牢性や、利用環境や利用者層への適合度が厳しく問われることになる。
  2. 目標課題:モデルプロジェクトでは、しばしば手段自体が目的化してしまう。あるいは、面倒を嫌って手軽に使えるように、手続き化を極端に進めると、本来の意図が極端に矮小化されたり、失われたりすることが多い。
  3. 運用課題:たとえ技術的に可能であっても、それを支える体制や稼働コストが伴わなければ、現場では持続利用できない。

つまり、簡単に言い直せば、「正しい目的をきちんと認識しつつ(目標)、簡単・便利に(技術)、日常的に使ってもらう(運用) 」ことが必要だ。

運用課題については、具体的に例をあげよう。

筆者は学校広報をウェブサイト展開するにあたってCMS(Content Management System)利用を推奨しているが、CMSの仕様には、学校利用を前提としたある程度の割り切りと、機能と運用を両立させるためのバランス感覚が必要だ。
CMSには特定利用者を判別するログインやコミュニティ機能をサポートした高機能なものがあるが、「なんでもできる」ことを求めて、仕様を膨らませ過ぎると、結局誰も維持管理できなくなる。機能管理には、それに応じた工数が必要だが、これら大半は学校現場のシャドウコストになるからだ。

ログイン機能ひとつ考えてみてもはっきりしている。こういった機能は便利だが、あっても実際には使われないことの方が多い。
平均規模の学校で全職員+全生徒+全保護者のID・パスワードを管理することを想定してみて欲しい。それだけで大企業のシステム部門がやるような仕事になってしまう。これを一教職員が片手間で管理するのは、どう考えても非現実的だ。企画導入時に、教職員の稼働時間や作業工数のことが念頭にないと、こんな単純なことにも気づきにくいのである。


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